パンプスのエレガントさとスニーカーライクな歩きやすさと履き心地の良さを兼ねそなえた「SHISEI(シーセイ)」の靴。大人の女性の心を鷲づかみにする新感覚ハイブリッドシューズの誕生には、ヴィブラムが深く関わっていました。
今回、ヴィブラム-イズムの取材チームが訪れたのは、東京・南青山にあるSHISEIのヘッドオフィス。ブランドの生みの親でもあるデザイナー、山根真理子さんに、ブランドの歩みとものづくりへの想い、そしてヴィブラムとのパートナーシップについてうかがいました。
SHISEI デザイナー 山根真理子さん 1999年にアパレルメーカーに入社。靴の企画を任されたことをきっかけに、靴に興味を抱き、現場に通って靴作りの基本を学ぶ。2004年にデュプレックスの立ち上げに参加。大手セレクトショップへのデザイン提供やプライベートブランドのディレクション、デザインに関わる。2022年ブランド、SHISEIを立ち上げる。
−− まずはブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
山根真理子さん(以下「山根」と略す) 2022年にブランドを立ち上げるまで、百貨店や国内外のさまざまなブランドのシューズデザインを手がけていました。 仕事を続けているうちに、たくさんの女性たちが靴にまつわる悩みを抱えていることを知りました。 『足が痛い』『自身に合うサイズがわからない』『コーディネートが難しい』など、悩みの内容はネガティブなものが多かったんです。また、靴は雨や気温にも左右されるため、悩みはもっと複雑になってしまいます。 そんな声を聞いているうちに、みなさんの悩みを解決できる靴をつくりたいと思うようになりました。目指したのは、大人の女性が日常で使えるシューズです。
−− きっかけは現代の女性たちの悩みだったんですね。
山根
私自身の悩みもきっかけになりました。 以前は慢性的な腰痛に長年悩まされていて、鍼やマッサージなどあらゆるものを試しました。ですが、いずれも根本的な治療になりませんでした。 試行錯誤した末、自分自身の筋肉で正しい姿勢を支えていくしかない、という結論に辿り着きました。トレーニングに取り組んだ結果、体幹が安定して、腰痛がほとんど気にならなくなりました。歩く速度も速くなって、体が疲れにくくなったのを実感しました。 シューズデザイナーにとって、この効果は見逃すことができませんでした。このことをきっかけに、姿勢や歩き方にもアプローチする靴を作ることについても考え始めました。 骨折をして、リハビリのために始めたピラティスもヒントをくれました。 レッスンを続けているうちに、私は内転筋をうまく使えていなかったことがわかったんです。 日常生活の中で、この筋肉を意識して使うことができなければ、姿勢も崩れ、体が疲れやすくなります。反対に意識して使うことができれば、両足を使って正しい姿勢で立ち、スムーズに歩くことができるんです。 また、素足でトレーニングを行っていると、足の指を使えるようになり、意識が向くのが実感できました。 私が理想とするのは、内転筋を意識できる、素足に近い感覚で履ける靴だと確信したんです。
−− 開発でもっとも苦労した点は?
山根
既存のコンフォートシューズは、履き心地がいい反面、『履きたい』と思えるフォルムのものがあまりなく、デザインの面でも自分が好きな服に合わせにくいものが多かったんです。 『履き心地を選ぶのなら、ファッションは諦めて』と言われているようで、違和感がありました。 そんなこともあって、革靴を離れて、スニーカーばかり履いている時期もありました。でも、大人ですから、スニーカーで出かけるのをためらうようなシーンもあるんです。 そこでSHISEIでは、コンフォート性とファッション性を両立させることに力を注ぎました。 履き心地がよくて、見た目もスタイリッシュ、急な天気の変化にも対応できて、着たい服にも合わせやすいトレンド感をあわせもつ……現代の女性が靴に対して求めることをすべて叶えるシューズを作ることが開発の基本姿勢です。
−− たしかにフォルムがすっきりしています。
山根
SHISEIはその履き心地も大きな特徴ですので、靴の原型となる木型(ラスト)もすべてオリジナルです。木型の開発では、ファッション性とコンフォート感の両立を実現するために、ミリ単位での調整を繰り返しました。最初に完成したのが、このポインテッドパンプスのラストでした。
最近では、コンフォート性を求めるあまり、実際の足よりも大きい靴やスニーカーを履いている方が少なくありません。 インソールに、必要以上にフワフワなクッション材が使われている靴もよく見かけます。 こうした靴は、足を入れた瞬間こそ心地さを感じるんですが、じつは歩く際には、必要以上に足に力が入ってしまうので、足が疲れやすくなるんです。 反対に、つま先部分が細くて、足指を圧迫するような靴を我慢して履いている方もいる。 こういう足に合わない靴を長く履き続けていると、足の変形につながり、外反母趾などの足のトラブルや骨盤のゆがみ、O脚など健康面にもさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
−− 靴は大きくても、小さくてもダメなんですね。
山根
靴が自身の足を包み込むようにきちんとフィットして、かつ、足指が必要以上に締め付けないことが肝心です。 SHISEIでは、素足で立っているような自然な履き心地を実現するために、親指の付け根部分に若干の厚みを持たせています。こうすることで、足の内側に重心をかけやすくなって、自然に内転筋を意識しやすくなります。 実際に私は、骨盤が立ちやすくなることで、正しい姿勢をキープできるようになり、長時間の立ち仕事でも疲れにくくなりました。 この特徴はSHISEIのすべての靴に共通しています。たくさんの方から、「履きやすい」という声をいただけるのは、この独自の木型にあると思います。
−− 女性の靴では珍しいヴィブラムを選んだ理由は?
山根
履き心地、スタイリッシュなデザイン、機能性と、盛りだくさんなコンセプトを実現するには、これまでの婦人靴のアプローチから離れて、まったくのゼロから開発する必要がありました。そこでお話をさせていただいたのが、ヴィブラムでした。 靴は足へフィットするだけでは十分ではなく、実際に履いて、歩いてどう感じるかが重要です。 そのためには、完成度の高いソールが不可欠です。 もともと私は普段からFiveFingersを愛用していたこともあり、ヴィブラムのグリップ力や品質に信頼を置いていました。 何より靴作りに関わる者にとって、やはりヴィブラムは特別な存在です。 登山など靴の機能が命を左右する過酷なシーンで培われた同ブランドの品質や開発力を駆使すれば、今までにないハイブリッドシューズを作り出せると確信していました。 −− ブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
山根
長年靴のデザインに携わってきましたが、履き心地とデザインを両立させることに課題を感じていました。ファッションとしての美しさと、日常的に快適に履ける機能性を融合させたいという思いから、SHISEIを立ち上げました。
−− 「SHISEI」というブランド名にはどのような意味が込められていますか?
山根 「SHISEI」は日本語の「姿勢」に由来しています。正しい姿勢は健康と美しさの基本です。また「至誠」という言葉も重ねています。誠実に靴作りを行うという意思を込めました。
−− 靴作りにおいて最も重視しているポイントは?
山根 一番大切にしているのは、履いた瞬間に体が自然と整うような感覚を得られることです。そのために独自のラスト(木型)を作り、姿勢や歩行に影響を与える微妙なバランスを追求しています。
−− 独自のラストについて詳しく教えてください。
山根 ラストは靴作りの心臓部ともいえる存在です。SHISEIでは、従来のラストにとらわれず、解剖学や運動学の観点から新しい設計を行いました。最初に完成したのが、このポインテッドパンプスのラストでした。足指が自由に動けるようなスペースを持たせながら、美しいシルエットを保つことを両立させています。
−− 特徴的なかかとのパーツもヴィブラム製でしょうか?
山根
そうです。SHISEIのアイコンにもなっているのが、特徴的な形状のかかとパーツです。このONENESS HEEL SYSTEM(ワンネスヒールシステム)は、ヴィブラムと共同開発した独自のパーツです。かかとをホールドするキャップとヒールを一体化させた独自のヒールシステムです。 かかとに合わせて造形されたソフトなラバーパーツがかかとをすっぽり包み込むことで、歩行時に靴が脱げることなく、足の裏に吸い付いてくるような感覚を生み出します。加えて濡れた路面や起伏のある岩場が想定されたヴィブラムの「メガグリップ」が配合されているので、衝撃吸収力やグリップ力にも優れています。 かかと以外のアウトソールにはヴィブラムの「アイストレック」を採用しました。通常のゴムは氷点下になると硬化してしまうのですが、このコンパウンドは柔軟性を保ち、グリップ力が低下しません。氷や雪の上での使用を想定した本格アウトドア用のソールだけあって、都会の路面でも優れたグリップ力を発揮します。 ヒールパーツを含めた底面のグリップ力が、着地を安定させて、蹴り出しを助けるような感覚を作ります。一歩一歩に安心感があります。
−− ヴィブラムとの開発はどうでしたか?
山根
開発は簡単ではありませんでした。特にONENESS HEEL SYSTEMはまったく新しいパーツだったこともあって、開発は手描きのデッサンを持ち込むところからスタートしました。かかと全体を包み込む立体的な構造のため、粘土をこねて試作品を作って、イメージをしっかり伝えました。ヴィブラム側にとっても、難しいチャレンジだったと思います。
にもかかわらず、ヴィブラムの開発チームは、豊富なノウハウだけでなく、新しいものを作ろうという意欲にも満ちあふれていて、本当に心強かったです。構想を含めると5年ほどの時間がかかりましたが、ヴィブラムのサポートもあって、私の理想をかたちにすることができました。歴史のあるグローバルな会社なのに、私のコンセプトに耳を傾けてくれたことに深く感謝しています。新しいユニークなプロダクトを生み出そうとする独自の社風を感じました。
−− デビューから2年が経ちますが、手ごたえを感じていますか?
山根
幸いなことにユーザーの皆さんの口コミで広めていただいて、ファッション業界内でもご愛用者が多く、気に入ったモデルは色違いで揃えられる方も多くいらっしゃいます。多くの方にデイリーユースしていただいていることによろこびを感じています。
−− 広く受け入れられた理由はどこにあると思いますか?
山根
ブランドのコンセプトに共感していただいたからだと思います。感覚や肌感、曖昧な言葉に聞こえるかもしれませんが、実際に私自身もユーザーの一人であり、その感覚を靴作りにフィードバックしています。私が感じることは、みなさんも同じはず。 ユーザーの方々に「気がつくと、SHISEIを履いてしまう」と言っていただけることは、開発時にこだわった部分を実感していただいているからだと思います。SHISEIの靴なら、履き心地にも、ファッション的にも、我慢する必要はありません。デザインもシンプルなので、普段の仕事から会食などのお出かけまで幅広いシーンに対応できます。 また、サンダル以外のほとんどのモデルは撥水加工をしているので、急な雨にも対応します。汚れにくくてケアも簡単です。現代に合ったハイブリッドシューズだと思います。
−− SHISEIは今後、どんな風に進化を遂げていきますか?
山根
顔や手のケアと比べて、足の健康ということになると、関心がある人はそれほどいらっしゃらないように思います。でも、足は健康でいるためにとても重要です。10年後も20年後も、美しい姿勢で歩き続けるために、足に合った靴を履いて、歩くことを楽しんでほしい。SHISEIの靴を履くことは、足をケアすることと思っていただけたらうれしいです。
ブランド名には、誠実さや真心を意味する「至誠」に加えて、ほかに「she say」という意味も込めました。これからも女性たちが言うことに耳を傾けて、より快適で、よりファッショナブルなシューズを作り続けていきたい。そのためにも、SHISEIの靴作りを支えるヴィブラムとのパートナーシップを育んでいきたいと思います。
SHISEI(シーセイ)
変化の激しい現代を軽やかに生きる女性のためのシューズブランド。長年靴のデザインを手がけてきたデザイナー、山根真理子氏が生み出すシューズは、流麗なシルエットとミニマルなデザイン、スニーカーライクな快適な履き心地を両立し、未来の健康美にもアプローチする。
SHISEI デザイナー 山根真理子さん 1999年にアパレルメーカーに入社。靴の企画を任されたことをきっかけに、靴に興味を抱き、現場に通って靴作りの基本を学ぶ。2004年にデュプレックスの立ち上げに参加。大手セレクトショップへのデザイン提供やプライベートブランドのディレクション、デザインに関わる。2022年ブランド、SHISEIを立ち上げる。
−− まずはブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
山根真理子さん(以下「山根」と略す) 2022年にブランドを立ち上げるまで、百貨店や国内外のさまざまなブランドのシューズデザインを手がけていました。 仕事を続けているうちに、たくさんの女性たちが靴にまつわる悩みを抱えていることを知りました。 『足が痛い』『自身に合うサイズがわからない』『コーディネートが難しい』など、悩みの内容はネガティブなものが多かったんです。また、靴は雨や気温にも左右されるため、悩みはもっと複雑になってしまいます。 そんな声を聞いているうちに、みなさんの悩みを解決できる靴をつくりたいと思うようになりました。目指したのは、大人の女性が日常で使えるシューズです。
−− きっかけは現代の女性たちの悩みだったんですね。
山根
私自身の悩みもきっかけになりました。 以前は慢性的な腰痛に長年悩まされていて、鍼やマッサージなどあらゆるものを試しました。ですが、いずれも根本的な治療になりませんでした。 試行錯誤した末、自分自身の筋肉で正しい姿勢を支えていくしかない、という結論に辿り着きました。トレーニングに取り組んだ結果、体幹が安定して、腰痛がほとんど気にならなくなりました。歩く速度も速くなって、体が疲れにくくなったのを実感しました。 シューズデザイナーにとって、この効果は見逃すことができませんでした。このことをきっかけに、姿勢や歩き方にもアプローチする靴を作ることについても考え始めました。 骨折をして、リハビリのために始めたピラティスもヒントをくれました。 レッスンを続けているうちに、私は内転筋をうまく使えていなかったことがわかったんです。 日常生活の中で、この筋肉を意識して使うことができなければ、姿勢も崩れ、体が疲れやすくなります。反対に意識して使うことができれば、両足を使って正しい姿勢で立ち、スムーズに歩くことができるんです。 また、素足でトレーニングを行っていると、足の指を使えるようになり、意識が向くのが実感できました。 私が理想とするのは、内転筋を意識できる、素足に近い感覚で履ける靴だと確信したんです。
−− 開発でもっとも苦労した点は?
山根
既存のコンフォートシューズは、履き心地がいい反面、『履きたい』と思えるフォルムのものがあまりなく、デザインの面でも自分が好きな服に合わせにくいものが多かったんです。 『履き心地を選ぶのなら、ファッションは諦めて』と言われているようで、違和感がありました。 そんなこともあって、革靴を離れて、スニーカーばかり履いている時期もありました。でも、大人ですから、スニーカーで出かけるのをためらうようなシーンもあるんです。 そこでSHISEIでは、コンフォート性とファッション性を両立させることに力を注ぎました。 履き心地がよくて、見た目もスタイリッシュ、急な天気の変化にも対応できて、着たい服にも合わせやすいトレンド感をあわせもつ……現代の女性が靴に対して求めることをすべて叶えるシューズを作ることが開発の基本姿勢です。
−− たしかにフォルムがすっきりしています。
山根
SHISEIはその履き心地も大きな特徴ですので、靴の原型となる木型(ラスト)もすべてオリジナルです。木型の開発では、ファッション性とコンフォート感の両立を実現するために、ミリ単位での調整を繰り返しました。最初に完成したのが、このポインテッドパンプスのラストでした。
最近では、コンフォート性を求めるあまり、実際の足よりも大きい靴やスニーカーを履いている方が少なくありません。 インソールに、必要以上にフワフワなクッション材が使われている靴もよく見かけます。 こうした靴は、足を入れた瞬間こそ心地さを感じるんですが、じつは歩く際には、必要以上に足に力が入ってしまうので、足が疲れやすくなるんです。 反対に、つま先部分が細くて、足指を圧迫するような靴を我慢して履いている方もいる。 こういう足に合わない靴を長く履き続けていると、足の変形につながり、外反母趾などの足のトラブルや骨盤のゆがみ、O脚など健康面にもさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
−− 靴は大きくても、小さくてもダメなんですね。
山根
靴が自身の足を包み込むようにきちんとフィットして、かつ、足指が必要以上に締め付けないことが肝心です。 SHISEIでは、素足で立っているような自然な履き心地を実現するために、親指の付け根部分に若干の厚みを持たせています。こうすることで、足の内側に重心をかけやすくなって、自然に内転筋を意識しやすくなります。 実際に私は、骨盤が立ちやすくなることで、正しい姿勢をキープできるようになり、長時間の立ち仕事でも疲れにくくなりました。 この特徴はSHISEIのすべての靴に共通しています。たくさんの方から、「履きやすい」という声をいただけるのは、この独自の木型にあると思います。
−− 女性の靴では珍しいヴィブラムを選んだ理由は?
山根
履き心地、スタイリッシュなデザイン、機能性と、盛りだくさんなコンセプトを実現するには、これまでの婦人靴のアプローチから離れて、まったくのゼロから開発する必要がありました。そこでお話をさせていただいたのが、ヴィブラムでした。 靴は足へフィットするだけでは十分ではなく、実際に履いて、歩いてどう感じるかが重要です。 そのためには、完成度の高いソールが不可欠です。 もともと私は普段からFiveFingersを愛用していたこともあり、ヴィブラムのグリップ力や品質に信頼を置いていました。 何より靴作りに関わる者にとって、やはりヴィブラムは特別な存在です。 登山など靴の機能が命を左右する過酷なシーンで培われた同ブランドの品質や開発力を駆使すれば、今までにないハイブリッドシューズを作り出せると確信していました。 −− ブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
山根
長年靴のデザインに携わってきましたが、履き心地とデザインを両立させることに課題を感じていました。ファッションとしての美しさと、日常的に快適に履ける機能性を融合させたいという思いから、SHISEIを立ち上げました。
−− 「SHISEI」というブランド名にはどのような意味が込められていますか?
山根 「SHISEI」は日本語の「姿勢」に由来しています。正しい姿勢は健康と美しさの基本です。また「至誠」という言葉も重ねています。誠実に靴作りを行うという意思を込めました。
−− 靴作りにおいて最も重視しているポイントは?
山根 一番大切にしているのは、履いた瞬間に体が自然と整うような感覚を得られることです。そのために独自のラスト(木型)を作り、姿勢や歩行に影響を与える微妙なバランスを追求しています。
−− 独自のラストについて詳しく教えてください。
山根 ラストは靴作りの心臓部ともいえる存在です。SHISEIでは、従来のラストにとらわれず、解剖学や運動学の観点から新しい設計を行いました。最初に完成したのが、このポインテッドパンプスのラストでした。足指が自由に動けるようなスペースを持たせながら、美しいシルエットを保つことを両立させています。
−− 特徴的なかかとのパーツもヴィブラム製でしょうか?
山根
そうです。SHISEIのアイコンにもなっているのが、特徴的な形状のかかとパーツです。このONENESS HEEL SYSTEM(ワンネスヒールシステム)は、ヴィブラムと共同開発した独自のパーツです。かかとをホールドするキャップとヒールを一体化させた独自のヒールシステムです。 かかとに合わせて造形されたソフトなラバーパーツがかかとをすっぽり包み込むことで、歩行時に靴が脱げることなく、足の裏に吸い付いてくるような感覚を生み出します。加えて濡れた路面や起伏のある岩場が想定されたヴィブラムの「メガグリップ」が配合されているので、衝撃吸収力やグリップ力にも優れています。 かかと以外のアウトソールにはヴィブラムの「アイストレック」を採用しました。通常のゴムは氷点下になると硬化してしまうのですが、このコンパウンドは柔軟性を保ち、グリップ力が低下しません。氷や雪の上での使用を想定した本格アウトドア用のソールだけあって、都会の路面でも優れたグリップ力を発揮します。 ヒールパーツを含めた底面のグリップ力が、着地を安定させて、蹴り出しを助けるような感覚を作ります。一歩一歩に安心感があります。
−− ヴィブラムとの開発はどうでしたか?
山根
開発は簡単ではありませんでした。特にONENESS HEEL SYSTEMはまったく新しいパーツだったこともあって、開発は手描きのデッサンを持ち込むところからスタートしました。かかと全体を包み込む立体的な構造のため、粘土をこねて試作品を作って、イメージをしっかり伝えました。ヴィブラム側にとっても、難しいチャレンジだったと思います。
にもかかわらず、ヴィブラムの開発チームは、豊富なノウハウだけでなく、新しいものを作ろうという意欲にも満ちあふれていて、本当に心強かったです。構想を含めると5年ほどの時間がかかりましたが、ヴィブラムのサポートもあって、私の理想をかたちにすることができました。歴史のあるグローバルな会社なのに、私のコンセプトに耳を傾けてくれたことに深く感謝しています。新しいユニークなプロダクトを生み出そうとする独自の社風を感じました。
−− デビューから2年が経ちますが、手ごたえを感じていますか?
山根
幸いなことにユーザーの皆さんの口コミで広めていただいて、ファッション業界内でもご愛用者が多く、気に入ったモデルは色違いで揃えられる方も多くいらっしゃいます。多くの方にデイリーユースしていただいていることによろこびを感じています。
−− 広く受け入れられた理由はどこにあると思いますか?
山根
ブランドのコンセプトに共感していただいたからだと思います。感覚や肌感、曖昧な言葉に聞こえるかもしれませんが、実際に私自身もユーザーの一人であり、その感覚を靴作りにフィードバックしています。私が感じることは、みなさんも同じはず。 ユーザーの方々に「気がつくと、SHISEIを履いてしまう」と言っていただけることは、開発時にこだわった部分を実感していただいているからだと思います。SHISEIの靴なら、履き心地にも、ファッション的にも、我慢する必要はありません。デザインもシンプルなので、普段の仕事から会食などのお出かけまで幅広いシーンに対応できます。 また、サンダル以外のほとんどのモデルは撥水加工をしているので、急な雨にも対応します。汚れにくくてケアも簡単です。現代に合ったハイブリッドシューズだと思います。
−− SHISEIは今後、どんな風に進化を遂げていきますか?
山根
顔や手のケアと比べて、足の健康ということになると、関心がある人はそれほどいらっしゃらないように思います。でも、足は健康でいるためにとても重要です。10年後も20年後も、美しい姿勢で歩き続けるために、足に合った靴を履いて、歩くことを楽しんでほしい。SHISEIの靴を履くことは、足をケアすることと思っていただけたらうれしいです。
ブランド名には、誠実さや真心を意味する「至誠」に加えて、ほかに「she say」という意味も込めました。これからも女性たちが言うことに耳を傾けて、より快適で、よりファッショナブルなシューズを作り続けていきたい。そのためにも、SHISEIの靴作りを支えるヴィブラムとのパートナーシップを育んでいきたいと思います。
SHISEI(シーセイ)
変化の激しい現代を軽やかに生きる女性のためのシューズブランド。長年靴のデザインを手がけてきたデザイナー、山根真理子氏が生み出すシューズは、流麗なシルエットとミニマルなデザイン、スニーカーライクな快適な履き心地を両立し、未来の健康美にもアプローチする。