vibram milano design week 2024
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Vibram Interview

DAIWA

フィッシングシューズの進化を支えるヴィブラムの力

世界に冠たる釣り具の総合メーカー「DAIWA」。フィッシングシューズの命であるソール開発のパートナーに、ヴィブラムを選んだ理由とは?

フィッシングギアのリーディングカンパニー「DAIWA」。近年はフィッシングシューズの開発にも力を注ぎ、数々のヒット作を世に送り出しています。中でも注目を集めるのが、ヴィブラムと共同開発したソールを搭載したハイスペックモデル。今回はシューズ開発の担当者にヴィブラムとのパートナーシップとものづくりにかける想いをうかがいました。

グローブライド株式会社 フィッシングアパレルマーケティング部 フットウェアMD 山﨑翔平さん

山口県出身。エスペランサ靴学院卒業後、靴作りの道へ。デザイナーズブランドやレディスメーカーで経験を積んだ後、本場の靴作りを学ぶため、イタリアへ留学。その後、グローブライド株式会社へ入社し、DAIWAのフットウェアを手がける。小学生の頃、下関での投げ釣りをきっかけに釣りの魅力に目覚め、現在は東京湾や多摩川でのシーバス釣りにハマっている。

−− まずはDAIWAの歴史を教えてください。

山﨑翔平さん(以下「山﨑」と略す)
1958年に創業したDAIWAの礎を築いたのはリールの開発でした。当初はおもに輸出用のリールを製造していましたが、1965年にスプールが外側に配されたアウトスプール型のスピニングリールを開発します。大量の糸を巻くことができ、かつ回転スピードと巻き上げ能力も向上させたリールは、世界中の釣り人たちに衝撃を与えました。

−− “リールのDAIWA”といわれるゆえんですね。

山﨑
リールの性能を高めるために、新しい素材の開発にも力を注いできました。1979年には世界にさきがけてカーボングラファイト素材を使ったリールやロッドを発売し、2007年には高密度カーボン素材の「ZAION/ザイオン」を発表しています。2010年には宇宙工学を駆使したテクノロジーである「マグシールド」を開発。特殊な液体マテリアルである磁性流体による防水・防塵機能に加え、回転スピードを飛躍的に向上させることに成功し、リールの新時代を切り拓きました。

−− 靴作りの歴史も長いのですか?

山﨑
はい。1975年のカタログにはすでにフィッシングシューズが掲載されていますから、半世紀の歴史があります。

−− シューズ開発でヴィブラムとタッグを組んだ経緯を教えてください。

山﨑
「DAIWAの釣り用靴がリールに劣らない信頼性を獲得するには?」という問題を考えた時、辿り着いた答えのひとつがソール...ヴィブラムだったのです。私はDAIWAに入社する前から、ビスポーク靴やデザイナーズなどさまざまなジャンルの靴作りに携わってきました。靴業界にはさまざまなソールメーカーがありますが、中でもヴィブラムは特別な存在。特にアウトドアシューズの分野で絶対的な評価を獲得しているグリップ力とタフさは、DAIWAのフィッシングシューズにもぜひ取り入れたい強みでした。

−− そこで誕生したのが、昨年リリースされた「FOGLER GORE-TEX」ですね。

山﨑
はい。岸からのバス釣りといった主に‟おかっぱり“での使用を想定したシューズです。見どころは“ブランド初”となる2つのスペック。ひとつはヴィブラムの代表的なコンパウンド「Vibram MEGAGRIP」を搭載したソールを共同開発している点、もうひとつがゴアテックスを採用した透湿防水シューズである点です。

−− ソールの共同開発に当たってハードルはありましたか?

山﨑
釣りの際には、濡れた岩場の上やぬかるんだ岸辺を歩くことが少なくありません。アウトドアシーンでも特殊なシチュエーションといえますが、1937年創業という長い歴史を持つヴィブラムは我々のニーズに対応できる豊富なノウハウをお持ちでした。

−− 完成品を試した感想はどうでしたか?

山﨑
安定したグリップ力に驚かされました。不安定な岩場や斜面の岸辺でも、靴底に粘りを感じることができ、また、屈曲性にも優れ、親指でしっかり大地を掴める感覚が印象的でした。また、ラバーソールはラバーが硬すぎるとクッション性やグリップ力に影響し、かといって柔らかすぎると耐久性が低下してしまいます。その点、「Vibram MEGAGRIP」は硬軟のバランスも絶妙でした。

−− ソールの形状やアウトソールのデザインも独特です。

山﨑
前方が大きく巻き上がった特徴的なソール形状は、ダメージを受けやすいつま先を補強するため。また、アウトソールのスパイクとスパイクの間に泥が挟まると、グリップ力が低下してスリップしやすくなります。そこでこのソールでは、スパイクの間には適度な間隔を設けることで、泥が抜けやすくなるよう工夫しているんです。

−− インソールも特別なものを使用していますね。

山﨑
「Orthlite インソール」です。オープンセル構造による優れた通気性と、従来のウレタンフォームよりもヘタリにくい点が特徴。かかと部分にはホールド感が向上するEVAカップインソールが組み込まれているため、長時間歩いても足が疲れにくい。さらに足と接する面には滑り止め加工を施すことで、内部の足のズレを軽減し、斜めの護岸でも快適な釣りが可能です。

−− もうひとつのDAIWA初であるゴアテックスはどんなものですか?

山﨑
防水透湿素材のゴアテックス・ファブリックを靴の形状に合わせて袋状に加工したものです。このゴアテックスが内側に装着された靴は、足を濡らさず、かつ靴内の蒸れを防いでくれます。

−− ミリタリー風のデザインもこれまでの釣り用シューズと一線を画します。

山﨑
デザインはギアとしての機能美にこだわりました。丈夫なナイロンメッシュのアッパーやサイドにあしらったラバーパーツは、藪漕ぎ(道のない藪の中を枝や笹などをかき分けて進むこと)の際にアッパーを守るため。カラーバリエーションはグレージュとブラックのワントーンカラーと、リミテッドグレーのマルチカラーの3色展開。ブランドロゴも控えめにしました。

−− よく見ると、シューレースではないのですね。

山﨑
はい。普通のシューレースですと、藪漕ぎした際ほどけてしまい、釣りをしていると、それがかなりストレスになります。ですので、このモデルには紐を結ぶ必要がないスピードフィットシステムを採用しました。グローブを装着している際でもスムーズに履くことができるので、釣りには最適です。

−− スペックといい、デザインといい、釣り以外のシーンでも履きたくなる一足です。

山﨑
ありがとうございます。実際、このモデルを普段の靴として使ったり、登山に使ったりしているスタッフもいます。現在の取り扱いは釣り用品店のみなのですが、ユーザー層が広がっていくのはうれしいです。

−− フィッシングシューズとしては、少々値は張るものの、売れ行きは順調とのこと。人気の理由をどう考えますか?

山﨑
やはりヴィブラムのソールによる歩きやすさが大きいと思います。どれだけアッパーにハイテク素材を使っても、直接地面に接するソールの性能が低ければ、シューズとしてのパフォーマンスを100%発揮できませんから。釣り具メーカーのさまざまなニーズに完璧に応えていただけたのは、ソール開発の第一人者であるヴィブラムだからこそ。このモデルで深まったパートナーシップは、次の「ウェーディングシューズ WS-2302C」の誕生へと繋がりました。

ヴィブラムと共同開発した新製品の実力を探る

今年2月に「DAIWA」が新たなウェーディングシューズをリリース。ヴィブラムと共同開発したIDROGRIP FLEX採用のソールの実力を探る。

前編では、DAIWAのシューズ開発のキーマンである山﨑翔平さんにブランドの歩みとヴィブラムとのパートナーシップについてうかがいました。後編では、今年2月に発売された新しいウェーディングシューズをリポートします。グリップ力や履き心地のよさはもちろん、環境にも配慮したヴィブラムのソールを装着したニューモデルは、フィッシングギアの未来を映し出します。

グローブライド株式会社 フィッシングアパレルマーケティング部 フットウェアMD 山﨑翔平さん
山口県出身。エスペランサ靴学院卒業後、靴作りの道へ。デザイナーズブランドやレディスメーカーで経験を積んだ後、本場の靴作りを学ぶため、イタリアへ留学。その後、グローブライド株式会社へ入社し、DAIWAのフットウェアを手がける。小学生の頃、下関での投げ釣りをきっかけに釣りの魅力に目覚め、現在は東京湾や多摩川でのシーバス釣りにハマっている。

−− ウェーディングシューズの「ウェーディング」とはどのような意味ですか?

山﨑翔平さん(以下「山﨑」と略す)
海や川の中に入って行う釣りのことです。魚の世界である水中に身を浸すことで自然との距離を近く感じることができ、陸やボート上の釣りでは味わえない非日常を味わうことができます。通常、ウェーダーと呼ばれる腰や胸までの胴長靴をはいて行います。

−− 水の中に入るということは、靴にも高い安全性が要求されます。

山﨑
水中や水際の岩は苔や藻などが生えていてとても滑りやすく、バランスを崩して転倒すれば、事故につながる危険も。すり足で進むなど歩き方にもコツがありますが、何より大切なのは靴がスリップしないことです。そこでDAIWAは新しいウェーディングシューズの開発に取り組みました。

−− そうして完成したのが、今年の2月にリリースされたウェーディングシューズですね。

山﨑
はい。「ウェーディングシューズ WS-2302C」は源流域と小渓流での着用を想定したモデルです。最大の見どころは「IDRAGRIP FLEX」を採用したヴィブラムと共同開発したソール。ヴィブラムがフィッシングのために開発したゴム配合を採用したソールは、濡れた岩場でも優れたグリップ力を発揮します。

−− 数あるソールの中、ヴィブラムのソールを選んだ理由は?

山﨑
これまでウェーディングシューズといえば、化学繊維を圧縮してシート状にした「フェルトソール」が搭載されたモデルが主流でした。濡れた岩や石を踏んでも滑りにくいソールですが、その反面、水に濡れると重くなったり、土が絡んだりしてしまい、林道を歩くのには向いていませんでした。特に山深い源流域や小渓流での釣行は、足場の悪い山中を長距離移動することも多いため、今回採用したヴィブラムのソールにアドバンテージがあります。

−− なるほど。ウェーディングだけでなく、林道での移動にも対応したハイブリッド仕様というわけですか。

山﨑
その通りです。ヴィブラム「IDROGRIP FLEX(イドログリップ フレックス)」なら、水を吸ったり、土が絡んだりすることもないですし、耐摩耗性や速乾性にも優れています。さらに「IDRAGRIP FLEX」はしなやかで屈曲性に優れているため、長時間歩いても足が疲れにくいのもポイントです。ただ、万能というわけではなく、藻や苔が多い渓流や中流域では、フェルトソールやフェルトスパイクの方が滑りにくいので、ゾーンによって使い分けることをおすすめします。

−− それぞれに得意なゾーンがあるのですね。

山﨑
ただ、フェルトソールには意外なデメリットが懸念されているのです。フェルトに外来種の苔が絡まって、そのままアングラーが移動すると、苔が別の場所に運ばれてしまうというケースです。近年、日本でも外来種の苔が問題になっているので、フェルトソールの使用には環境面での不安が残ります。実際、ニュージーランドではフェルトソールの使用が禁止されています。

−− ソールの形状やアウトソールのデザインも独特です。

山﨑
前方が大きく巻き上がった特徴的なソール形状は、ダメージを受けやすいつま先を補強するため。また、アウトソールのスパイクとスパイクの間に泥が挟まると、グリップ力が低下してスリップしやすくなります。そこでこのソールでは、スパイクの間には適度な間隔を設けることで、泥が抜けやすくなるよう工夫しているんです。

−− インソールも特別なものを使用していますね。

山﨑
「Orthlite インソール」です。オープンセル構造による優れた通気性と、従来のウレタンフォームよりもヘタリにくい点が特徴。かかと部分にはホールド感が向上するEVAカップインソールが組み込まれているため、長時間歩いても足が疲れにくい。さらに足と接する面には滑り止め加工を施すことで、内部の足のズレを軽減し、斜めの護岸でも快適な釣りが可能です。

−− もうひとつのDAIWA初であるゴアテックスはどんなものですか?

山﨑
防水透湿素材のゴアテックス・ファブリックを靴の形状に合わせて袋状に加工したものです。このゴアテックスが内側に装着された靴は、足を濡らさず、かつ靴内の蒸れを防いでくれます。

−− ミリタリー風のデザインもこれまでの釣り用シューズと一線を画します。

山﨑
デザインはギアとしての機能美にこだわりました。丈夫なナイロンメッシュのアッパーやサイドにあしらったラバーパーツは、藪漕ぎ(道のない藪の中を枝や笹などをかき分けて進むこと)の際にアッパーを守るため。カラーバリエーションはグレージュとブラックのワントーンカラーと、リミテッドグレーのマルチカラーの3色展開。ブランドロゴも控えめにしました。

−− よく見ると、シューレースではないのですね。

山﨑
はい。普通のシューレースですと、藪漕ぎした際ほどけてしまい、釣りをしていると、それがかなりストレスになります。ですので、このモデルには紐を結ぶ必要がないスピードフィットシステムを採用しました。グローブを装着している際でもスムーズに履くことができるので、釣りには最適です。

−− スペックといい、デザインといい、釣り以外のシーンでも履きたくなる一足です。

山﨑
ありがとうございます。実際、このモデルを普段の靴として使ったり、登山に使ったりしているスタッフもいます。現在の取り扱いは釣り用品店のみなのですが、ユーザー層が広がっていくのはうれしいです。

−− フィッシングシューズとしては、少々値は張るものの、売れ行きは順調とのこと。人気の理由をどう考えますか?

山﨑
やはりヴィブラムのソールによる歩きやすさが大きいと思います。どれだけアッパーにハイテク素材を使っても、直接地面に接するソールの性能が低ければ、シューズとしてのパフォーマンスを100%発揮できませんから。釣り具メーカーのさまざまなニーズに完璧に応えていただけたのは、ソール開発の第一人者であるヴィブラムだからこそ。このモデルで深まったパートナーシップは、次の「ウェーディングシューズ WS-2302C」の誕生へと繋がりました。

−− 試着してみました。履き口がガバッと開きます。

ストッキングタイプのウェーダーでも履きやすいよう履き口を大きく開くように作っています。足型も大きめに設計していて、薄い靴下で使用したい場合は、付属のインソールでサイズ感の微調整ができます。ハイカットですが、アッパーがしなやかなので、足首も動かしやすいはず。

−− ソールは薄型なのにクッション性があります。

山﨑
衝撃を吸収するEVAミッドソールを内蔵していますから。また、アッパーにはインビスタ社の「CORDURA fabrics」を採用しています。軽いだけでなく、引き裂きや摩擦にも強いので、枝や笹をかき分けて進む藪漕ぎの際にも安心です。側面にはシームレス構造のサイドフォールを配し、排水孔を設ける事で排水性も高めています。

−− 前編で紹介した「FOGLER GORE-TEX」と同じく、デザインもスタイリッシュです。

山﨑
デザインはミリタリーブーツをイメージしています。また、渓流釣りをする人は派手な色使いを好まない傾向があるので、このモデルも自然に溶け込むようシックな色使いを心がけました。さすがにタウンユースは難しいですが(笑)。

−− 今回、DAIWAのフィッシングシューズを見せていただきましたが、釣り用の靴とは思えないほどスタイリッシュでした。今後、シューズをきっかけに、釣りに興味を持つ人も増えていくのでは?

山﨑
ありがとうございます。DAIWAの目標は、釣りを誰もが楽しめる“ライフタイムスポーツ”にすること。そのためにライフスタイルと一体化したさまざまな提案を行っているのですが、そのうえでデザイン性は重要な鍵となると考えています。
とはいえ、あくまでフィッシングシューズはギアですから、第一義は機能性。フィッシングで培ったテクノロジーが本来のパフォーマンスを発揮できるかどうかは、地面に接するソールにかかっています。今後、DAIWAのフィッシングシューズが進化を遂げていくうえで、ヴィブラムはかけがえのないパートナーとなるでしょう。

ダイワ

日本を代表するフィッシングブランド。1958年にDAIWAの前身となる大和精工株式会社が創業し、リール製造を開始。その後、アウトスプール型リールや高純度カーボンといった画期的なギアやテクノロジーを次々と生み出す。2009年に社名をグローブライド株式会社へ変更。近年はアパレルラインの「DAIWA PIER39」や「DAIWA LIFESTYLE」を展開するなど、ファッションシーンでも注目を集める。