vibram milano design week 2024
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Vibram Interview

LA SPORTIVA JAPAN

伝統あるファミリーカンパニー

1928年、北イタリアに創業したスポルティバ。アルパインブーツからクライミングシューズまであらゆる“山靴”を製造し、世界中のプロフェッショナルから厚い支持を得ている老舗シューズブランド。その製品の多くには、ヴィブラムのソールが使用されています。
右が代表取締役の佐藤義朗さん。左の長崎誠さんがマーケティングおよびブランディングを担当。

日本総代理店の「日本用品株式会社 スポルティバ ジャパンディビジョン」(以下、スポルティバ ジャパン)の佐藤義朗さんと長崎誠さんを訪ね、その歴史や製品作りについてお話を伺いました。

−− スポルティバとはどういうブランドなのか、その歴史や製品について改めて教えてください。
長崎 ドロミテ山麓のヴァル・ディ・フィエンメ(以下、フィエンメ)という街で創業したシューズブランドです。登山、クライミング、マウンテンランニング(トレイルランニング)の3つのカテゴリーのシューズを開発、製造しています。
佐藤 フィエンメは、ミラノから東へ300kmほど離れた山間の街です。北イタリアのドイツ語圏に属している街なので、南の、地中海のイメージとはずいぶん印象が違います。
長崎 ヴァルが谷という意味なので、直訳すると「フィエンメ谷」。両側に山が迫る、まさに谷底にある街ですね。

−− スポルティバは、日本では「プロフェッショナル向けの登山靴」というイメージがあります。本国イタリアではどのような位置付けのブランドなのでしょう?
佐藤 まさに日本と同じく、プロ用の登山靴というイメージです。イタリアではもちろん、ヨーロッパ全土において、ハイレベルな靴を作るブランドとして認知されていると思います。
長崎 オートメーションの工程と、職人の手による工程の両方を経てシューズを製造しています。例えばソールのエッジの処理や張り合わせなどは、職人が手作業で行っています。
佐藤 会社自体はいい意味で、昔ながらのファミリーカンパニー。近年少しずつ規模が拡大しており、本国の従業員は現在500名弱です。フィエンメは小さい街で、いわば“スポルティバの街”なんですよね。誰もが顔見知りで、子供の頃から知っているという関係。3代続けてスポルティバで働いている、なんて話もよく聞きます。
一方で地元採用ではない、例えばヘッドハンティングといったケースも増えてきています。また去年からCSRを担当するマネージャーの女性が入社しました。現在では男性よりも女性のほうが従業員数が多くなっています。

−− スポルティバジャパンの親会社である日本用品株式会社により、1969年に日本での販売がスタートしました。その経緯を教えていただけますか。
佐藤 私は生まれていなかったので、先代と先々代、つまり父と祖父から聞いた話になるのですが……ケルンのアウトドア見本市で、スポルティバの製品を見たことがきっかけです。当時我々は秋葉原に「ニッピン」というアウトドア専門店を構えていました。つまり買い付けのために、海外の見本市を訪れていたんです。
スポルティバをひと目見て、デザイン性の高さに惹かれたと聞いています。当時の一般的な登山靴とは一線を画す新しさがあったんですね。ソールとアッパーの圧着技術も最先端のものだったそうです。

−− 以来、実に半世紀以上にわたるパートナーシップが継続しています。その理由は何だと思いますか。
佐藤 現在、世界各国にスポルティバのディストリビューターがあります。その中で最も古くから契約を続けている国のひとつが、日本なんです。
長く続いている理由は2つあると思います。ひとつは、スポルティバと日本用品株式会社という2つの組織の価値観がマッチしていたこと。
もうひとつは人と人とのつながりです。スポルティバの今の社長と、日本用品の先代の私の父が同年代。そして社長の娘が私と同い年で、息子が私の妹と同い年(笑)。私たち兄妹も小さい頃からイタリアに行く機会があり、家族ぐるみのお付き合いをしてきたというのも、大きな理由だと思います。
近年は、社員にも積極的にイタリアでのミーティングに参加してもらっています。我々家族だけでなく、社員にも同じように本国とのつながりを持ってもらいたいと思っています。

パリ五輪で選手の活躍をサポート

世界中のクライマーから絶大な支持を得ているシューズブランド、スポルティバ。今回は登山靴の最新モデルと、パリ五輪のスポーツクライミングにおいて、日本人選手の足元を支えたクライミングシューズを紹介してもらいました。

−−今シーズン発表された、新しい登山靴があると伺いました。

長崎 
スポルティバの登山靴には2つの大きな柱があります。歩行に特化した「エクイリビウム」シリーズと、登攀に特化した「トランゴ」シリーズです。
今回ご紹介する「トランゴ PRO GTX」は、ハードな登攀に対応する「トランゴ」シリーズの一足でありながら、歩きやすさと履き心地の良さを同時に実現したシューズなんです。

向かって右が登山靴の最新モデル「トランゴ PRO GTX」。

−−その機能性の秘密はどこにあるのでしょうか。

長崎 ヴィブラムと共同開発したソールユニットにあります。エクイリビウムシリーズに以前から搭載されていた、ヴィブラム「スプリング ラグ テック」という技術を用いたソールシステムを採用。中空のユニットなので軽量化にもつながりました。
また、岩に足を掛ける登攀用シューズはソールの固さも重要です。その固さをキープしたまま、踏み込んだときのクッション性が向上しました。

佐藤 
スポルティバは毎シーズン必ず“攻めた”モデルを発表しますが、この「トランゴ PRO GTX」はその最たるものだと思います。

−−登山靴以外のカテゴリーの注目作も、ぜひ紹介してください。

長崎 
こちらはパリ五輪で森秋彩選手が着用したクライミングシューズ「マンダラ」です。2024年SSの製品になります。
クライミングシューズは一般的にはエッジの立ったソールを使用します。ですがこの「マンダラ」は、“ノーエッジ”と呼ばれるソールを採用しているんです。文字通りエッジのない滑らかな形状です。
エッジを取った部分はソールが薄くなります。壁や岩と、内部の足の距離が近くなる。つまり、裸足の感覚に近くなるということなんです。ソールはもちろんヴィブラムの製品です。

左が安楽宙斗選手が着用した「スクワマ」、右がパリ五輪で森秋彩選手が着用した「マンダラ」。

実は森選手はパリ五輪直前に、従来のシューズからこの「マンダラ」に履き替えたんです。より足に合う感じがする、ということで。結果、総合4位というパフォーマンスを発揮してくれました。

佐藤 
シューズのサイズにシビアだったり、履き心地にこだわるクライマーさんは多いです。それだけ感覚が鋭いのだと思います。プロではなく一般ユーザーの中にも、同じモデルの色違いで「赤と黄色は、微妙に感覚が違う」という方がいらっしゃいます。

−−パリ五輪で銀メダルを獲得した安楽宙斗選手も、スポルティバのアンバサダーを務めていますね。

佐藤 ええ。ただ安楽選手は、いい意味でシューズに無頓着なんです。安楽選手が使用している「スクワマ」というシューズは、赤と黄色の2色展開。彼はずっと赤を履いてきたんですが、パリ五輪直前のワールドカップで急に黄色に変えました。何となく、黄色の気分だったのかもしれません(笑)。
アスリートによってシューズに対する感覚がまったく違うのも、面白いところですね。

ヴィブラムとは「信頼の証」

スポルティバのシューズの多くには、ヴィブラムのソールが採用されています。なぜヴィブラムなのでしょうか。それは、命の危険と常に隣り合わせにあるクライマーたちに絶大な支持を得ているから。スポルティバにとっても、そのシューズを履くユーザーにとっても、ヴィブラムは「信頼の証」だったのです。

−− スポルティバというシューズブランドから見て、ヴィブラムとはどんなメーカーですか?

長崎
ひとことで言えば「信頼の証」です。クライマーにとってシューズは命を預けるものであり、中途半端な素材は使えません。スポルティバだけではなく多くのシューズブランドが、歴史ある、優れたヴィブラムのソールを使うのは当然のことだと思います。

佐藤 
私は、2022年にイタリアのヴィブラム本社を訪問したことがあるんです。そのとき、とても「美しい」工場だと感じました。どの部署も整理整頓が徹底していて。確かなもの作りの大前提とは何かを、目の前で見せられたような気がします。
またスポルティバとの関係性で言えば、ヴィブラムとは一心同体だと感じます。現地のヴィブラムの工場で、製品についてお話しいただいたときのこと。説明の中に、スポルティバの開発メンバーの名前がどんどん出てきました。マテオから依頼されたとか、アランのリクエストが大変だった、とか。とてもアットホームな雰囲気だったんです。
両社は同じイタリアの企業で、距離的にも決して遠くない。世界中のシューズメーカーがヴィブラムのソールを採用していますが、そのアドバンテージを最も享受しているのは、実はスポルティバなのかもしれません。

−− ヴィブラムは、一般的なユーザーからも評価されていると思いますか?

佐藤 
実は一般のユーザーの中にも、ソールに詳しい方は多いんです。「コンパウンド(ソールの素材配合)は何ですか?」なんて聞かれることも。自分が楽しむアウトドアのアクティビティに、どんなソールがマッチするのかをよくご存じで、本当に頭が下がります。

長崎 
ユーザーの方も、ヴィブラムの黄色いマークを「信頼の証」として認知しています。ヴィブラムは間違いなく、世界一有名なソールだと思います。

−− ありがとうございます。最後に、スポルティバ ジャパンの今後のビジョンを教えてください。

佐藤 
まずはスポルティバというブランドを、日本のアウトドアシューズの中でトップの位置に持っていきたい。
そして相反するようですが、“いたずらな成長”はこのブランドに相応しくないと思っています。本国と今までどおりのコミュニケーションをとりながら、適切な形でブランド認知を広げていきたいですね。
本国スポルティバは、4年後の2028年に創業100周年を迎えます。そして私たちスポルティバ ジャパンは、日本用品株式会社の創業から数えて、2051年が100年のアニバーサリー。これからも末長く、良きパートナーであり続けたいと思っています。