古いヴィンテージシューズのソールを ヴィブラムに貼り替えて履いています。
DJ、プロデューサーとしての活躍もさることながら、食、ファッション、時計、車、アート、文学など幅広い分野への興味は止まるところを知らない田中知之さん。中でもヴィンテージ・ウェアのコレクションは有名です。それも見て楽しむのではなく、自ら着て、履いて楽しんでいらっしゃいます。お話はそんなヴィンテージシューズのことから始まりました。
−−ヴィブラムというソールに対してのインタビューをさせていただきたいと思いますが、田中さんはどんな形でヴィブラムとお付き合いをされていますか?
田中知之さん(以下「田中」と略す)
まずはソールのお話からさせていただきます。古着が好きなのですが、古い靴、いわゆるヴィンテージシューズも好きですね。ビンテージの靴を見るとき、靴底には注目しています。ヴィブラムではないのですが、アメリカで電線を張ったりする人の、ラインマンというみたいですが、その人たち用の靴があって、靴底がケーブルの束ねたウネウネの柄がソールの型になっているものをデッドストックで見つけたことがありまして、面白いものを作るな、と思いました。そのケーブルの柄が滑り止めにもなっているっていう珍品でした。靴好きにとって、ソールの楽しみってありますよね。ヴィブラムに関していえば、ぼくも家にたくさんあるはずなのですが、靴そのものがたくさんありすぎて見つからない(笑)。多分箱に入っていて、積み上げているのだと思います(笑)。ビンテージの靴を買ったとき革底はまだそのまま履けますが、プラスチックソールという珍品もあって、滑って履けないわけです。今持っているものの中にもフェルトのボディで底がつるつるの合成皮革になっている1960年代くらいのブーツがあるのですが、もう、滑って滑って履けたものではありません。危なくて。それで自分でヴィブラムに張り替えました。
−−ご、ご自身で、ですか?
田中
修理屋に持っていってですよ!(笑)それでも、ヴィブラムを貼りたいと思い、オーダーして貼り替えました。こうした加工はめちゃくちゃやっています! 革底の靴もおしゃれでいいですが、絶対に滑りますし、靴底が傷みますよね。擦り減ったら、敢えてヴィブラムの薄いソールを貼ります。ビンテージの靴を履くときなんてヴィブラムさまさまですよ。さっきの合成皮革なんてスケート靴かっていうくらい滑りましたから(笑)。
60年代のフェルト製ブーツ。靴底は合皮だったが、現在はヴィブラムチューン済み。
−−(インタビューの日はその靴が見つからなかったので、拝見しながらはお話を伺えませんでした。後日撮影させていただきました)合皮ソールって、ラグ(靴底の凸凹)はあるのですか?
田中
いやいや、ツルッツルですよ。革底の革が合皮になった、つまり樹脂のソールです。スケート靴並みに滑りますよ(笑)。滑るための靴じゃないか? というくらい(笑)。
−−確かに今でも樹脂製の革底の靴はありますね。革の代用品ですよね。
田中
その代用品がビンテージになるとレアだから、価値があるものになるわけです。
−−観賞用になってしまうわけですか? でも、わざわざヴィブラムに貼り替えてくださっているのですものね?
田中
普通は観賞用になるのでしょうけれど、ぼくは履きたくて。それでヴィブラムに貼り替えて、普段履きできるようにしました。ヴィブラムってありがたいですね。そこで思うのですが、ヴィブラムってブランドですよね。そこがすごい! だって、ソールの専門ですよ。それがブランドになるってすごいじゃないですか! イタリアの登山家の方が始めた歴史も含めて、結局、材料や部品ではなくて、ブランドですから! ヴィブラムに似せたものもがあるわけですけれど、黄色のロゴがあるだけで「良い」ってなりますよね。
−−ありがとうございます! そんな風に思ってくださる田中さんがヴィブラムを意識したきっかけはありますか?
田中
雑誌「POPEYE」などでMA-1やリーバイスを知るような感じで、ヴィブラムもありましたね。しかも靴底の形状ではなく、ブランドなのだ、という意識は強かったです。黄色いロゴがあると本物、それ以外は偽物、という感覚です。今回の取材を機にヴィブラムを再認識するようになったので、古着、古靴好きとしてはビンテージのヴィブラムを探してみたくなります。このソール、古いヴィブラムで良いな、とか。
−−ショールームには昔のソールのレプリカはあります。そういう意味ではソールの専門という歴史もありますから探せば出てくるかもしれませんね。
田中
ヴィブラムのインパクトは大したものです。靴底でこれだけのインパクトのあるブランドはなかなかないですよね。Drマーチンのエアークッション(バウンシングソール)やナイキのエアは有名ですが、シューズありきで他社への供給はしませんからね。その点ヴィブラムは、ソールだけで他社ブランドの足の底を守る稀なブランドです。他社じゃなくても靴の修理屋にあって、あるだけでも安心する。魔法にかかった感じがするじゃないですか? とにかく滑りにくいという。ファッションにおいて特殊な立ち位置ですよね。本物感は他に類を見ない気がします。パーツなのにブランド感があるって珍しいですよね。
−−靴底は見えないものだけにコミュニケーションはしづらい部分もあるのですが。
田中
服好きな人はヴィブラムのことはわかっているから大丈夫ですよ。ブランドの上に絶対的な信頼がありますから。
ビンテージのフェルトのブーツの靴底をヴィブラムソールに変えて履くという、新しいアプローチ。古着好きではなくても参考になるお話を伺えました。次回はマニアックなソールの機能に関してのお話です。
DJ、プロデューサーとしての活躍もさることながら、食、ファッション、時計、車、アート、文学など幅広い分野への興味は止まるところを知らない田中知之さん。中でもヴィンテージ・ウェアのコレクションは有名です。それも見て楽しむのではなく、自ら着て、履いて楽しんでいらっしゃいます。お話はそんなヴィンテージシューズのことから始まりました。
−−ヴィブラムというソールに対してのインタビューをさせていただきたいと思いますが、田中さんはどんな形でヴィブラムとお付き合いをされていますか?
田中知之さん(以下「田中」と略す)
まずはソールのお話からさせていただきます。古着が好きなのですが、古い靴、いわゆるヴィンテージシューズも好きですね。ビンテージの靴を見るとき、靴底には注目しています。ヴィブラムではないのですが、アメリカで電線を張ったりする人の、ラインマンというみたいですが、その人たち用の靴があって、靴底がケーブルの束ねたウネウネの柄がソールの型になっているものをデッドストックで見つけたことがありまして、面白いものを作るな、と思いました。そのケーブルの柄が滑り止めにもなっているっていう珍品でした。靴好きにとって、ソールの楽しみってありますよね。ヴィブラムに関していえば、ぼくも家にたくさんあるはずなのですが、靴そのものがたくさんありすぎて見つからない(笑)。多分箱に入っていて、積み上げているのだと思います(笑)。ビンテージの靴を買ったとき革底はまだそのまま履けますが、プラスチックソールという珍品もあって、滑って履けないわけです。今持っているものの中にもフェルトのボディで底がつるつるの合成皮革になっている1960年代くらいのブーツがあるのですが、もう、滑って滑って履けたものではありません。危なくて。それで自分でヴィブラムに張り替えました。
−−ご、ご自身で、ですか?
田中
修理屋に持っていってですよ!(笑)それでも、ヴィブラムを貼りたいと思い、オーダーして貼り替えました。こうした加工はめちゃくちゃやっています! 革底の靴もおしゃれでいいですが、絶対に滑りますし、靴底が傷みますよね。擦り減ったら、敢えてヴィブラムの薄いソールを貼ります。ビンテージの靴を履くときなんてヴィブラムさまさまですよ。さっきの合成皮革なんてスケート靴かっていうくらい滑りましたから(笑)。
60年代のフェルト製ブーツ。靴底は合皮だったが、現在はヴィブラムチューン済み。
−−(インタビューの日はその靴が見つからなかったので、拝見しながらはお話を伺えませんでした。後日撮影させていただきました)合皮ソールって、ラグ(靴底の凸凹)はあるのですか?
田中
いやいや、ツルッツルですよ。革底の革が合皮になった、つまり樹脂のソールです。スケート靴並みに滑りますよ(笑)。滑るための靴じゃないか? というくらい(笑)。
−−確かに今でも樹脂製の革底の靴はありますね。革の代用品ですよね。
田中
その代用品がビンテージになるとレアだから、価値があるものになるわけです。
−−観賞用になってしまうわけですか? でも、わざわざヴィブラムに貼り替えてくださっているのですものね?
田中
普通は観賞用になるのでしょうけれど、ぼくは履きたくて。それでヴィブラムに貼り替えて、普段履きできるようにしました。ヴィブラムってありがたいですね。そこで思うのですが、ヴィブラムってブランドですよね。そこがすごい! だって、ソールの専門ですよ。それがブランドになるってすごいじゃないですか! イタリアの登山家の方が始めた歴史も含めて、結局、材料や部品ではなくて、ブランドですから! ヴィブラムに似せたものもがあるわけですけれど、黄色のロゴがあるだけで「良い」ってなりますよね。
−−ありがとうございます! そんな風に思ってくださる田中さんがヴィブラムを意識したきっかけはありますか?
田中
雑誌「POPEYE」などでMA-1やリーバイスを知るような感じで、ヴィブラムもありましたね。しかも靴底の形状ではなく、ブランドなのだ、という意識は強かったです。黄色いロゴがあると本物、それ以外は偽物、という感覚です。今回の取材を機にヴィブラムを再認識するようになったので、古着、古靴好きとしてはビンテージのヴィブラムを探してみたくなります。このソール、古いヴィブラムで良いな、とか。
−−ショールームには昔のソールのレプリカはあります。そういう意味ではソールの専門という歴史もありますから探せば出てくるかもしれませんね。
田中
ヴィブラムのインパクトは大したものです。靴底でこれだけのインパクトのあるブランドはなかなかないですよね。Drマーチンのエアークッション(バウンシングソール)やナイキのエアは有名ですが、シューズありきで他社への供給はしませんからね。その点ヴィブラムは、ソールだけで他社ブランドの足の底を守る稀なブランドです。他社じゃなくても靴の修理屋にあって、あるだけでも安心する。魔法にかかった感じがするじゃないですか? とにかく滑りにくいという。ファッションにおいて特殊な立ち位置ですよね。本物感は他に類を見ない気がします。パーツなのにブランド感があるって珍しいですよね。
−−靴底は見えないものだけにコミュニケーションはしづらい部分もあるのですが。
田中
服好きな人はヴィブラムのことはわかっているから大丈夫ですよ。ブランドの上に絶対的な信頼がありますから。
ビンテージのフェルトのブーツの靴底をヴィブラムソールに変えて履くという、新しいアプローチ。古着好きではなくても参考になるお話を伺えました。次回はマニアックなソールの機能に関してのお話です。
ドレスダウンさせながらも、 ヴィブラムがバランスをとってくれます。
前回は古靴のソールを貼り替えて履かれているお話を伺いました。今回はご自身のお持ちのヴィブラムのお話を伺いつつ、元編集者の田中さんならではの、逆インタビューでヴィブラムの世界をお話させていただきました(笑)。
−−思い出のアウトソールってありますか?
田中
先ほどは樹脂製のソールのお話をしましたが、革底のものを買ったときも薄いヴィブラムを貼ってもらって履くようにすることはよくありますね。ヴィブラムを貼るとたくさん履きますからね。革靴を買うときも、革底という選択もあるかもしれませんが、あえてヴィブラムだから欲しいということもありますね。
−−欲しい靴がまずありきですよね?
田中
昔、ファッションに合わせて買った靴も、アッパーはスーツに合うようなデザインでしたが、それがヴィブラムで、カジュアルに履きこなせたわけです。良い具合にドレスダウンするけれど、ヴィブラムというブランドがあるからバランスが取れます。ラグジュアリーブランドでもヴィブラムのロゴはないけれど、ヴィブラムじゃないかな? というのを見ますよね。だからですね、逆に黄色のロゴがあると安心できて良いなぁ、とは思います。ロゴが入っていたかどうかは思い出せないのですが、初めて「GUCCI」のビットモカシンを買ったとき、ソールがヴィブラムで、これはカッコいいと思って買いました。記憶ではトム・フォード時代だったと思います。ドレッシーなアッパーにヴィブラムのボリュームと安心感があって、よく履きました。最近は履いていませんが、家にあるはず。フリーマーケットで売ろうかと思ったけれど、もったいなくて売りませんでした。さっきも言いましたが、家の中のどこにあるのかわからず、見つけられませんでした。
−−それはおそらくヴィブラムで間違いないと思います。
田中
ヴィブラムを使いたいと思ったら、使うだけでコラボ感出ますよね(笑)。
−−革底にヴィブラムのシートを貼っていただいているとおっしゃいましたが、それは機能として気に入っていただいているのですか?
田中
確かに機能性なのですが、貼るためにお店に持っていって、ヴィブラムを指定しなくても、戻ってきて、ヴィブラムが貼ってあったら、嬉しいじゃないですか。やったぁ、と思ったりね。見たこともない、いろんな柄があるのも良いですよね。
−−ショールームに来ていただいたら、本当にたくさんあるのがおわかりいただけます。飾ってあるのだけで100以上ありますから。ストックは、数100はありますね。
田中
数100! どれだけ開発しているのですか?
−−年間300種くらい発表しています。
田中
その中には超高性能なやつもあるのですか?
−−ありますね。氷の上で滑りにくいものも供給されています。ショールームには氷を貼れるマシンがあって、一般には公開していませんが、そこで試していただくこともできるようになっています。先日もご来社いただいた方がそのマシンを試して、滑らせようとしたら、靴はしっかり氷を噛んでいて、什器が動いてしまいました(笑)。
氷上体験ができるマシン
田中
冬の札幌行くときに欲しいですね。
−−傾斜45度の石の面に水を流して、そこでグリップを試すのもあります。片足は水では滑ってしまうタイプ、もう片方は濡れた面でもグリップするものを履いていただくとみなさん、そのグリップ力に驚かれますね。
これに足をかけると濡れた岩場でもグリップすることが体験できる。左にはドアストッパーがたまたま写り込んでしまいました。
田中
それも欲しいなぁ。実用靴はヴィブラムですよ。先ほどの樹脂製ソールもヴィブラムに貼り替えたことによって、実用に生まれ変わりましたからね。普通に履けるようになりました(笑)。
−−先ほど数100の種類があると申し上げましたが、北海道の冬場の道を歩くためのソールと濡れた岩場を歩くためのソールではゴムの配合が違います。ゴムの配合とデザインの組み合わせで使用用途が違ってきます。靴をつくる方と話をするとき「どこに行く靴」をつくりたいのか、という話から始めます。
田中
年に2、3回しか行かなくても札幌用に氷の上で滑らない靴は持っていたいですね。昔、札幌で雪用に靴の上からはめるようなゴム製の底を買いましたが、あまり効かなかったですから。オーバーブーツなどもあると良いですよね。
−−そういうタイプもご用意はあります。話は変わりますが、ヴィブラムの履き心地はいかがですか?
田中
履き心地を考えたことはないのですが、柔らかい感じが着地するときにあって、粘りのある良いゴムの感じはしますよね。
−−ゴムの配合で履き心地に寄せているものもあります。貼り替えるときも「どこで履く」ということをお伝えいただけると選べるものもあると思います。貼り替えでいうと、先ほどのヴィンテージのシューズのソールを貼り替えて履くっていうのは若い人に流行りそうですね。お話の中でシートの話があったことが嬉しいです。
田中
いやいや、ぼくはそっちがメインですから。1940年代の古いゴルフシューズを買ったことがありますが、靴底は昔のスパイク、鋲のやつで、危なくて履けませんでした。それで全面剥がしてヴィブラムに替えました。サッカーシューズや登山靴もヴィンテージでたくさん出回っていますが、ソールを貼り替えたのも市場に出回っています。ヴィンテージへのこだわりはありますが、靴底は見えないですからぼくもヴィブラムに張り替えちゃいますね。逆に質問したいのですが、ヴィブラムってソール以外に何かつくっていたりしないのですか?
−−ありますよ。たとえばドアストッパー、コースターなどですね。
田中
なるほど、滑り止めですね。
−−犬の靴もつくっています。
田中
うちの子にも履かせたいな。滑り止めとして使えるものは良いですよね。
−−ファイブフィンガーズのフットウエアとか自転車のペダルカバーもありますね。
田中
階段が濡れていて滑るとかよくありますよね。階段の滑り止めの建材をつくったら売れそうですよね。あと置きのタイプで、ヴィブラムのロゴが入っているの。ブランドとして確立しているから、売れますよ!(笑)
−−商品ではないですが、ヨガマットをつくったりはしていますね。ファイブフィンガーズはヨガとか格闘技する人には良いみたいです。ノベルティではキーホルダーもありますし、靴底ではありますが、ヒールのピンリフトもあります。
ヒールの踵用のヴィブラムソール。ひとつひとつは角砂糖ほどの大きさ
ミニチュアのヴィブラムソールをキーホルダーにしたノベルティ
田中
ちゃんと踏ん張れそうですね。こうした機能もいいですけれど、色があるって良いですよね。色が選べるイメージがなかったので、考えが変わりますね。色で遊べるって良くないですか? 靴底ファッションってこれからありですよね。
−−ヴィブラムソールは色を変えても性能は変わりません。パントーンだったらどのカラーもできます。
田中
そうしたら、アーティストとのコラボもできるじゃないですか! 絵を描いてもらったり。足組んだら、あれ⁉︎みたいな。靴って誰もが履くわけじゃないですか。靴底にアートがあって、滑らないっていうのがすごいですよ!
−−想像が膨らむ良いお話を伺えて、今日はありがとうございました。田中さんのご質問のおかげで、あまり知られていないヴィブラムの側面もお話しできる良い機会になりました。田中さんでしかありえないインタビューでした。ありがとうございました。
田中知之
FPM DJ / プロデューサー
1966年7月6日生まれ。京都市出身。
1995年にピチカート・ファイブのアルバム『ロマンチック’96』で自身のソロ・プロジェクトFantastic Plastic Machine=FPM 名義の楽曲「ジェット機のハウス」が収録されメジャーデビュー。97年に1stアルバム『The Fantastic Plastic Machine』をリリース。計8枚のアルバムをリリース。アーティストへの楽曲プロデュースも多数。また、FATBOY SLIM、布袋寅泰、東京スカパラダイスオーケストラ、UNICORN、くるり、サカナクションなど100曲以上の作品をリミックスしている。食やファッション、時計、車、アート、文学などへの造詣も深く、特にヴィンテージ・ウェアのコレクター/マニアとして知られる。雑誌編集者の経験を活かし、新聞、雑誌への寄稿も多数。
前回は古靴のソールを貼り替えて履かれているお話を伺いました。今回はご自身のお持ちのヴィブラムのお話を伺いつつ、元編集者の田中さんならではの、逆インタビューでヴィブラムの世界をお話させていただきました(笑)。
−−思い出のアウトソールってありますか?
田中
先ほどは樹脂製のソールのお話をしましたが、革底のものを買ったときも薄いヴィブラムを貼ってもらって履くようにすることはよくありますね。ヴィブラムを貼るとたくさん履きますからね。革靴を買うときも、革底という選択もあるかもしれませんが、あえてヴィブラムだから欲しいということもありますね。
−−欲しい靴がまずありきですよね?
田中
昔、ファッションに合わせて買った靴も、アッパーはスーツに合うようなデザインでしたが、それがヴィブラムで、カジュアルに履きこなせたわけです。良い具合にドレスダウンするけれど、ヴィブラムというブランドがあるからバランスが取れます。ラグジュアリーブランドでもヴィブラムのロゴはないけれど、ヴィブラムじゃないかな? というのを見ますよね。だからですね、逆に黄色のロゴがあると安心できて良いなぁ、とは思います。ロゴが入っていたかどうかは思い出せないのですが、初めて「GUCCI」のビットモカシンを買ったとき、ソールがヴィブラムで、これはカッコいいと思って買いました。記憶ではトム・フォード時代だったと思います。ドレッシーなアッパーにヴィブラムのボリュームと安心感があって、よく履きました。最近は履いていませんが、家にあるはず。フリーマーケットで売ろうかと思ったけれど、もったいなくて売りませんでした。さっきも言いましたが、家の中のどこにあるのかわからず、見つけられませんでした。
−−それはおそらくヴィブラムで間違いないと思います。
田中
ヴィブラムを使いたいと思ったら、使うだけでコラボ感出ますよね(笑)。
−−革底にヴィブラムのシートを貼っていただいているとおっしゃいましたが、それは機能として気に入っていただいているのですか?
田中
確かに機能性なのですが、貼るためにお店に持っていって、ヴィブラムを指定しなくても、戻ってきて、ヴィブラムが貼ってあったら、嬉しいじゃないですか。やったぁ、と思ったりね。見たこともない、いろんな柄があるのも良いですよね。
−−ショールームに来ていただいたら、本当にたくさんあるのがおわかりいただけます。飾ってあるのだけで100以上ありますから。ストックは、数100はありますね。
田中
数100! どれだけ開発しているのですか?
−−年間300種くらい発表しています。
田中
その中には超高性能なやつもあるのですか?
−−ありますね。氷の上で滑りにくいものも供給されています。ショールームには氷を貼れるマシンがあって、一般には公開していませんが、そこで試していただくこともできるようになっています。先日もご来社いただいた方がそのマシンを試して、滑らせようとしたら、靴はしっかり氷を噛んでいて、什器が動いてしまいました(笑)。
氷上体験ができるマシン
田中
冬の札幌行くときに欲しいですね。
−−傾斜45度の石の面に水を流して、そこでグリップを試すのもあります。片足は水では滑ってしまうタイプ、もう片方は濡れた面でもグリップするものを履いていただくとみなさん、そのグリップ力に驚かれますね。
これに足をかけると濡れた岩場でもグリップすることが体験できる。左にはドアストッパーがたまたま写り込んでしまいました。
田中
それも欲しいなぁ。実用靴はヴィブラムですよ。先ほどの樹脂製ソールもヴィブラムに貼り替えたことによって、実用に生まれ変わりましたからね。普通に履けるようになりました(笑)。
−−先ほど数100の種類があると申し上げましたが、北海道の冬場の道を歩くためのソールと濡れた岩場を歩くためのソールではゴムの配合が違います。ゴムの配合とデザインの組み合わせで使用用途が違ってきます。靴をつくる方と話をするとき「どこに行く靴」をつくりたいのか、という話から始めます。
田中
年に2、3回しか行かなくても札幌用に氷の上で滑らない靴は持っていたいですね。昔、札幌で雪用に靴の上からはめるようなゴム製の底を買いましたが、あまり効かなかったですから。オーバーブーツなどもあると良いですよね。
−−そういうタイプもご用意はあります。話は変わりますが、ヴィブラムの履き心地はいかがですか?
田中
履き心地を考えたことはないのですが、柔らかい感じが着地するときにあって、粘りのある良いゴムの感じはしますよね。
−−ゴムの配合で履き心地に寄せているものもあります。貼り替えるときも「どこで履く」ということをお伝えいただけると選べるものもあると思います。貼り替えでいうと、先ほどのヴィンテージのシューズのソールを貼り替えて履くっていうのは若い人に流行りそうですね。お話の中でシートの話があったことが嬉しいです。
田中
いやいや、ぼくはそっちがメインですから。1940年代の古いゴルフシューズを買ったことがありますが、靴底は昔のスパイク、鋲のやつで、危なくて履けませんでした。それで全面剥がしてヴィブラムに替えました。サッカーシューズや登山靴もヴィンテージでたくさん出回っていますが、ソールを貼り替えたのも市場に出回っています。ヴィンテージへのこだわりはありますが、靴底は見えないですからぼくもヴィブラムに張り替えちゃいますね。逆に質問したいのですが、ヴィブラムってソール以外に何かつくっていたりしないのですか?
−−ありますよ。たとえばドアストッパー、コースターなどですね。
田中
なるほど、滑り止めですね。
−−犬の靴もつくっています。
田中
うちの子にも履かせたいな。滑り止めとして使えるものは良いですよね。
−−ファイブフィンガーズのフットウエアとか自転車のペダルカバーもありますね。
田中
階段が濡れていて滑るとかよくありますよね。階段の滑り止めの建材をつくったら売れそうですよね。あと置きのタイプで、ヴィブラムのロゴが入っているの。ブランドとして確立しているから、売れますよ!(笑)
−−商品ではないですが、ヨガマットをつくったりはしていますね。ファイブフィンガーズはヨガとか格闘技する人には良いみたいです。ノベルティではキーホルダーもありますし、靴底ではありますが、ヒールのピンリフトもあります。
ヒールの踵用のヴィブラムソール。ひとつひとつは角砂糖ほどの大きさ
ミニチュアのヴィブラムソールをキーホルダーにしたノベルティ
田中
ちゃんと踏ん張れそうですね。こうした機能もいいですけれど、色があるって良いですよね。色が選べるイメージがなかったので、考えが変わりますね。色で遊べるって良くないですか? 靴底ファッションってこれからありですよね。
−−ヴィブラムソールは色を変えても性能は変わりません。パントーンだったらどのカラーもできます。
田中
そうしたら、アーティストとのコラボもできるじゃないですか! 絵を描いてもらったり。足組んだら、あれ⁉︎みたいな。靴って誰もが履くわけじゃないですか。靴底にアートがあって、滑らないっていうのがすごいですよ!
−−想像が膨らむ良いお話を伺えて、今日はありがとうございました。田中さんのご質問のおかげで、あまり知られていないヴィブラムの側面もお話しできる良い機会になりました。田中さんでしかありえないインタビューでした。ありがとうございました。
田中知之
FPM DJ / プロデューサー
1966年7月6日生まれ。京都市出身。
1995年にピチカート・ファイブのアルバム『ロマンチック’96』で自身のソロ・プロジェクトFantastic Plastic Machine=FPM 名義の楽曲「ジェット機のハウス」が収録されメジャーデビュー。97年に1stアルバム『The Fantastic Plastic Machine』をリリース。計8枚のアルバムをリリース。アーティストへの楽曲プロデュースも多数。また、FATBOY SLIM、布袋寅泰、東京スカパラダイスオーケストラ、UNICORN、くるり、サカナクションなど100曲以上の作品をリミックスしている。食やファッション、時計、車、アート、文学などへの造詣も深く、特にヴィンテージ・ウェアのコレクター/マニアとして知られる。雑誌編集者の経験を活かし、新聞、雑誌への寄稿も多数。